夏が終わって涼しくなると、猫の体調は落ち着くと思われがちです。ところがこの時期に増えるのが泌尿器のトラブルです。理由ははっきりしていて、気温が下がると猫が水を飲まなくなるからです。9 月のうちに水回りを整えておくと、冬にかけての通院を減らせます。
原因は 1 つではなく、秋に重なる複数の条件が組み合わさります。
| 秋に起きる変化 | 泌尿器への影響 |
|---|---|
| 気温が下がり、のどの渇きが減る | 飲水量が落ち、尿が濃縮される。結晶ができやすくなる |
| 水が冷たくなる | 冷たい水を嫌って飲まなくなる個体がいる |
| 活動量が変わり、トイレの回数が減る | 尿が膀胱に長く留まる時間が増える |
| 寒くて水飲み場まで行かない | 暖かい部屋から出たがらず、遠い水場が使われなくなる |
| 夏の名残の脱水 | 夏バテで水分が足りていない状態を引きずる |
| 気圧・気温の変動によるストレス | 特発性膀胱炎の引き金になることがある |
とくに 猫はもともと水をあまり飲まない動物です。祖先が砂漠地帯にいたため、濃い尿を作って水分を節約する体の作りをしています。これは効率的な一方で、尿が濃くなりやすく結晶や結石ができやすいという弱点でもあります。飲水量が少し落ちるだけで、リスクは上がります。
猫が 1 日に必要とする水分量は、体重 1kg あたりおよそ 45〜55mlとされています。
| 体重 | 1 日に必要な総水分量 | ドライフード中心の場合、飲み水で必要な量 |
|---|---|---|
| 3kg | 135〜165ml | 約 110〜140ml |
| 4kg | 180〜220ml | 約 150〜190ml |
| 5kg | 225〜275ml | 約 190〜240ml |
| 6kg | 270〜330ml | 約 230〜290ml |
ドライフードの水分含有量はおよそ 10%、ウェットフードは 75〜80% です。同じカロリーを取る場合、ウェットフード中心の猫は食事だけで必要量の半分以上を摂れるのに対し、ドライフード中心の猫はほぼすべてを飲み水で補う必要があります。
「うちの子は飲んでいるほう」という感覚は、あてになりません。1 週間だけ測ってみてください。
この 1 週間の平均が、上の表の下限を下回っているなら対策が要ります。夏場の数字を記録してある人は、比べてみると秋の落ち込みがはっきり分かります。
最も効果が大きく、確実な方法です。一般的な 70g のウェットフード 1 袋で 約 55mlの水分が摂れます。1 日 1 袋足すだけで、飲み水の不足分をかなり埋められます。総カロリーが増えないよう、そのぶんドライフードを減らしてください。切り替えの手順は 猫のフードの切り替え方|7 日間の手順を参考にしてください。
冷たい水を嫌う猫は多くいます。30〜35℃ 程度のぬるま湯にすると飲む量が増える個体がいます。夜のうちに一度、器の水をぬるま湯に入れ替えるだけでも違います。逆に、流水を好む猫は冷たいほうを好むこともあるので、両方置いて反応を見るのが確実です。
秋以降にありがちなのが、暖房のある部屋から猫が出なくなり、廊下や洗面所の水飲み場が使われなくなるという状況です。夏に有効だった配置が、秋には機能しなくなります。猫が長く過ごす部屋に、最低 1 か所は水を置いてください。数の目安は 猫の頭数+1 か所以上です。置き方の基準は 猫の水飲み場の置き方|数・場所の基準にまとめています。
ひげが器の縁に当たるのを嫌う猫は少なくありません。口が広く、浅い器にすると飲水量が増えることがあります。素材は陶器かステンレスが清潔に保ちやすく、プラスチックは細かい傷に菌が残りやすいので毎日洗ってください。器の選び方は 猫の食器選び|素材と高さで扱っています。
流れる水に反応して飲む猫には有効です。ただし モーター音を嫌う個体もいるため、導入したら飲水量が本当に増えたか測って確認してください。フィルターの交換と週 1 回の分解洗浄を怠ると、かえって不衛生になります。比較は 猫の自動給水器 選び方と比較をどうぞ。
ぬるま湯を少量かけて 5〜10 分置きます。においが立つので食いつきも良くなります。ただし ふやかしたフードは傷みやすいので、30 分で片付けてください。歯石が付きやすくなるという指摘もあるため、毎食ではなく 1 日 1 回程度にとどめるのが無難です。
猫用のスープタイプのおやつを水に少し混ぜる方法があります。人間用のだしやスープは 塩分とタマネギ・ニンニクの問題があるため使えません。無塩の茹で汁(鶏のささみを塩なしで茹でた汁)なら少量使えますが、日持ちしないので当日中に使い切ってください。
泌尿器のトラブルは、初期のサインが分かりやすい一方で、進行が速いのが特徴です。次の様子が見られたら、様子見をせず受診してください。
オス猫は尿道が細く長いため、結晶や炎症の産物で 尿道が詰まる(尿閉)ことがあります。おしっこがまったく出ない状態が続くと、腎臓に負担がかかり、24 時間程度で命に関わる状態になります。
丸一日排尿がない、トイレで力んでも一滴も出ない、お腹を触ると痛がる、嘔吐する──この組み合わせは夜間救急の対象です。翌朝まで待たないでください。詳しくは 猫がおしっこを出せないときの緊急度と治療費にまとめています。
尿閉の処置は入院を伴うことが多く、治療費が 10 万円を超えることも珍しくありません。血尿の段階で受診できれば 1〜2 万円程度で済むケースもあります(詳細は 猫の血尿の原因と治療費の目安)。早く気づくことが、猫の負担も費用も減らします。こうした急な出費への備えを検討する場合は、ペット保険「うちの子」の詳細を見るから対象範囲を確認してみてください。
飲水量を増やす対策と並行して、異変に気づける状態を作っておくことが大切です。
ウェットフードを主食にしているなら、飲み水が少なくても総水分量は足りている可能性があります。判断すべきは「飲み水の量」ではなく「総水分量」です。ウェットフード 70g で約 55ml の水分が摂れるので、1 日 3 袋なら 165ml、これに少量の飲み水が加われば 4kg の猫の必要量に届きます。一方、ドライフード中心で飲み水が 1 日 50ml 程度しかないなら、明らかに不足しています。目に見える不調がなくても、濃い尿が続くと結晶ができやすくなり、数年かけて腎臓にも負担がかかります。逆に注意したいのが、急に飲水量が増えたケースです。1 日 300ml を超えるような飲み方をしている場合は、腎臓病や糖尿病、甲状腺の問題が隠れていることがあるので、多い方向の変化も受診の対象になります。
療法食は尿のミネラルバランスや pH を調整して結晶ができにくくするもので、水分を増やす対策の代わりにはなりません。むしろ療法食を処方される猫は、すでに泌尿器のリスクが高い状態なので、飲水量の確保はより重要になります。獣医師も「療法食+十分な飲水」をセットで指示することが多いはずです。療法食のウェットタイプがある場合は、ドライとの併用が有効です。なお、療法食は必ず獣医師の指示のもとで使ってください。結石の種類(ストルバイトかシュウ酸カルシウムか)によって適した食事が違い、自己判断で選ぶと逆効果になることがあります。同じ理由で、指示された療法食を「良さそうだから」と別の銘柄に替えるのも避けてください。
繰り返す膀胱炎で、細菌も結石も見つからない場合、特発性膀胱炎と呼ばれる状態のことがあります。原因がはっきりしない一方で、ストレスとの関連が指摘されており、環境の改善が有効なケースがあります。具体的には、トイレを頭数+1 に増やす、静かで落ち着ける隠れ場所を作る、高い場所に上がれるようにする、生活リズム(食事・遊びの時間)を一定に保つ、多頭飼いなら食器とトイレを分散させる、といった対応です。秋は気温変動、来客、模様替え、暖房器具の導入など環境が動きやすい季節なので、変化はまとめて行わず 1 つずつ間隔を空けるのがおすすめです。また、遊びの時間を 1 日 10 分でも確保すると、活動量と飲水量の両方が上がります。再発が続く場合は、必ず担当の獣医師に経過を伝えて相談してください。
秋の泌尿器トラブルは、気温が下がって水を飲まなくなるという単純な理由から始まります。対策も単純で、9 月のうちに ウェットフードを 1 食足す・水をぬるくする・暖かい部屋に水飲み場を増やすの 3 つをやっておけば、かなりの部分をカバーできます。
そして、固まる砂の塊を毎日見ること。トイレに行く回数が増えたのに量が少ない、というのが最も早く気づけるサインです。オス猫が丸一日排尿していない場合は、夜間でも受診してください。ここだけは待たないという線引きを、家族全員で共有しておくと安心です。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。掲載している数値は一般的な目安であり、必要な水分量や適切な食事は猫の年齢・体格・持病によって異なります。排尿の異常が見られる場合は、必ず動物病院を受診してください。