「おしっこはちゃんとトイレなのに、うんちだけクローゼットの中でされる」。このパターンは意外と多く、そして飼い主を消耗させます。猫が反抗しているように見えるからです。ただ実際には、排尿と排便では猫にとっての条件が違うために起きている現象で、条件を揃えれば戻ることがほとんどです。
排尿と排便では、猫がトイレに求めるものが違います。
| 比較項目 | 排尿 | 排便 |
|---|---|---|
| 所要時間 | 10〜30 秒 | 1〜3 分(前後の砂かきを含む) |
| 姿勢 | しゃがむだけ | 腰を落として踏ん張る。体を回して位置を決める |
| 必要な広さ | 体がすっぽり入れば足りる | 方向転換できる広さが要る |
| 無防備さ | 短時間で済む | 長く動けない。周囲が気になる |
| におい | 比較的軽い | 強く残る。汚れたトイレを避けやすい |
つまり排便は「時間がかかり」「体を回す広さが要り」「その間は無防備になる」行動です。トイレが狭い、通り道にある、他の猫に見張られている、砂が汚れている──といった条件では、排尿はできても排便だけは別の場所を選ぶという結果になります。
猫からすれば合理的な行動で、飼い主への当てつけではありません。この前提を持てるかどうかで、その後の対応が変わります。
行動の話に入る前に、体の問題を外しておきます。排便時に痛みを感じた経験は、トイレそのものへの忌避につながるためです。「トイレに入ると痛い」と学習すると、猫はトイレを避けます。
次のサインがある場合は、環境を変える前に受診してください。
特にシニア猫で急に始まった場合は、関節の痛みでトイレの縁をまたげなくなっている、あるいは高い場所にあるトイレまで行けなくなっている、という物理的な理由のこともあります。
便秘や便の状態の見方は 猫の便秘・うんちが出ないときの受診の目安にまとめています。検査や治療が必要になったときの費用感も含め、備えを考えるきっかけにする方は ペット保険「うちの子」の詳細を見るから公式ページを確認してみてください。
猫は「前回ここでした」というにおいを手がかりに、同じ場所を繰り返し使います。人間の鼻で分からなくても、猫には残っています。ここを断たないと、他の対策が効きません。
消臭グッズの選び方は 猫のいる家の消臭・掃除グッズの選び方を参考にしてください。
ここが本題です。排便に必要な条件を満たしたトイレを用意します。
鼻先からしっぽの付け根までの長さを測り、その 1.5 倍以上の長辺があるトイレを選びます。成猫(体長 40cm 前後)なら 長辺 60cm 以上が目安です。市販の猫用トイレの多くは 45〜50cm 程度なので、足りていないケースが非常に多くあります。
専用トイレにこだわらず、衣装ケースの蓋なし、または浅めの収納ボックスを使うと安価に条件を満たせます。縁が高すぎる場合は、片側をカットして出入り口を作ります。
ドーム型(屋根付き)は、におい対策としては優秀ですが、中に排便のにおいがこもります。また、外の様子が見えないため、多頭飼いでは「出たところで待ち伏せされる」不安につながります。排便を外す猫には、まず屋根を外してみてください。それだけで戻る例があります。
基本の原則です。2 匹なら 3 個。すでに足りている場合でも、排便専用にもう 1 個増やすという考え方が有効です。猫の中には、おしっこ用とうんち用を分けたがる個体がいます。
排便は排尿より長く砂を掻きます。粒の細かい鉱物系(ベントナイト)を 5〜7cm の深さで入れると、掻きやすく足も汚れません。粒が大きい紙系やウッド系は、掻き心地が硬く敬遠される場合があります。今の砂で外れているなら、1 個だけ細かい砂に替えて反応を見ます。砂の種類ごとの違いは 猫砂の選び方|素材別メリット・デメリットにまとめています。
洗濯機の横、廊下の途中、玄関のそば、家族が頻繁に通る場所は避けます。壁に囲まれた行き止まりも、多頭飼いでは不安要素になります。2 方向から出入りできる、静かな場所が理想です。トイレ本体の選び方は 猫トイレの選び方|サイズ・形・数の基準で詳しく扱っています。
ここが最もつまずきやすい部分です。条件を満たしたトイレを用意しても、いきなり理想の場所に置くと使われません。
成功したときに褒める、おやつを与えるのは効果があります。逆に、失敗を叱るのは必ず逆効果です。猫は「排便を見られると怒られる」と学習し、より見つかりにくい場所(家具の裏、布団の中)を選ぶようになります。粗相を見つけても、猫のいないところで黙って片付けてください。
2 匹以上いる家庭では、犯人を思い込みで決めないことです。おとなしい子のほうが外していた、というのはよくあります。
特定できたら、その子と他の猫との関係を見直します。トイレの前で待ち伏せされている、通り道で威嚇されている、といったことが背景にある場合、トイレの数と配置を分けるだけで解決することがあります。トイレは 同じ部屋に並べるのではなく、別の部屋に分散させるのがポイントです。
急な変化には必ずきっかけがあります。まず体調を疑ってください。便秘、下痢、肛門嚢の炎症、関節の痛みなど、排便に痛みを伴う状態になると、猫は「トイレ=痛い場所」と関連づけてしまいます。特に 7 歳以上なら、変形性関節症でトイレの縁をまたぐのが辛くなっている可能性があります。体に問題がなければ、直近 2 週間の環境変化を洗い出してください。猫砂の銘柄を変えた、トイレを買い替えた、洗剤を変えた、家具の配置を変えた、新しい家族やペットが増えた、来客が続いた、近所で工事が始まった──こうした小さな変化が引き金になります。心当たりがあるなら、可能な範囲で元に戻すのが最短です。戻せない場合は、猫が選んだ場所にトイレを移すところから始めてください。
「頭数+1」を満たしていても、内訳が同じでは意味が薄い場合があります。同じサイズ・同じ形・同じ砂・同じ部屋のトイレが 3 個あるのは、猫にとって選択肢が 1 種類あるのと変わりません。増やすなら、今と違う条件のものを 1 個足してください。今がドーム型なら屋根なしを、今が紙砂なら細かい鉱物砂を、今が洗面所なら寝室側に。そして置き場所は、粗相している場所の近くです。この「条件違いの 1 個」で、猫が何を避けていたのかが分かります。数週間で新しいほうだけを使うようになったら、避けていた条件が特定できたということなので、他のトイレもそちらに寄せていきます。
砂かきをせずに出てくること自体は、必ずしも異常ではありません。もともと埋めない個体はいますし、自信のある猫(家庭内で優位な立場の猫)はにおいを残す傾向があるとも言われます。ただし、今まで埋めていたのに急に埋めなくなった場合は、いくつか確認する価値があります。砂の量が少なくて掻いても届いていない、砂の粒が大きくて足に痛い、トイレが狭くて掻く動作ができない、爪が伸びすぎている、前足に痛みがある、といった理由があり得ます。砂を 5〜7cm の深さまで足す、粒の細かいものに替える、といった調整で戻ることがあります。埋めない状態が続くと、においが強く残り、そのトイレ自体を避けるきっかけになるので、掃除の頻度は上げておいてください。
うんちだけトイレを外すのは、しつけの失敗ではなく 排便という行動に必要な条件が足りていないというサインです。順番は、①病気を外す、②においを完全に消す、③大きく浅く屋根のないトイレを粗相場所の近くに置く、④成功が続いたら 1 日 10cm ずつ動かす。
時間はかかります。移動だけで 2 週間、定着まで 1 か月というつもりで進めてください。焦って元の位置に戻すのが、最もよくある失敗です。そして、失敗しても叱らないこと。叱ると、より見つけにくい場所に移るだけで、問題は解決しません。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の診断・治療を推奨するものではありません。排便の異常が続く場合や、痛みを伴う様子がある場合は、必ず動物病院を受診してください。