この記事の要点
「うちの子は抱っこが嫌いで」と言われることが多いのですが、猫の側の理由を分解すると、嫌がっている対象は抱っこそのものではないことがほとんどです。実際にはこの3つが混ざっています。
ここから導かれる結論はシンプルです。足の裏に何かが触れている状態を作り、短時間で確実に終わらせる。この2点を守るだけで、多くの猫の反応は変わります。
抱っこ以外の接触全般を嫌がる場合は、猫が触られるのを嫌がるときの考え方もあわせて読むと整理しやすくなります。
これが最も重要で、最も守られていないルールです。猫が身をよじってから下ろすと、猫の学習は「暴れれば下ろしてもらえる」になります。逆に、まだ落ち着いているうちにこちらから下ろせば、学習は「抱っこはすぐ終わる」になります。
目安は、猫が「まだ大丈夫そう」に見えるタイミングの2秒前です。物足りないくらいでちょうどいい、と考えてください。
1回30秒を1日1回より、1回5秒を1日2回のほうが進みます。短い成功体験の反復が、抱っこという行為の予測を書き換えます。
7日プログラムは直線ではありません。5日目でうまくいかなければ、3日目の長さに戻して2日過ごしてから再開します。押し切ると振り出しに戻るので、退がるほうが結果的に早く進みます。
1日1〜2回、猫が落ち着いている時間帯(食後や、遊んだあとのゆるんだタイミング)に行います。ごはん前の空腹時や、寝入りばなは避けてください。
まだ持ち上げません。床にあぐらをかいて座り、猫が近づいてきたら膝の上に前足だけ乗る状態を作ります。片手を猫の胸の前に軽く添え、5秒数えたら手を離して自由にします。おやつを1粒渡して終了。
この段階のゴールは「膝=いい場所」という結びつきです。乗ってこなくても構いません。乗せようと引き寄せないでください。
座ったまま、猫のお尻の下に片手を差し込み、もう片方の手を胸の前に回します。持ち上げる高さは床から5cmで十分です。1、2、3と数えたら下ろす。おやつ。
ここでの持ち方が全体の成否を決めます。お尻を必ず支えること。脇の下だけを持って持ち上げると、後ろ足が完全に浮き、猫は最も不快な状態になります。
同じ3秒を、間隔をあけて2回。1回目と2回目の間に30秒以上あけ、その間は猫を自由にします。連続で繰り返さないのがポイントです。
初めて立ちます。ここで多くの猫が一度リセットします。目線の高さが変わり、床が遠くなるからです。立ち上がったらすぐ数え始めて5秒で座って下ろす。立ったまま歩き回らないでください。
猫の体を自分の胸に軽く密着させると、背中側に「壁」ができて安定します。宙に浮かせるのではなく、自分の体を足場にしてあげる感覚です。
5秒を安定して受け入れられたら、10秒に延ばし、その中で3歩だけ歩きます。行き先は決めておき、3歩の先で下ろします。移動距離を予測できることが、猫の緊張を下げます。
15秒の抱っこで、リビングから廊下の入口まで、といった短い移動を1回。ここまで来れば、通院用キャリーへの移動や、爪切りの体勢づくりが現実的になります。
7日で完了しない猫もたくさんいます。2〜3週間かかるほうが普通だと思ってください。日数より、各段階で猫が落ち着いているかどうかを基準にします。
次のうち1つでも出たら、その時点で静かに下ろしてください。数えている途中でも構いません。
これらは噛みつきや引っかきの直前に出るサインです。読み取り方は猫のボディランゲージの読み方、なでている途中で急に噛まれる場合は撫でていたら噛まれるのはなぜ?が参考になります。
すべての猫が抱っこを受け入れるようになるわけではありません。とくに成猫になってから迎えた保護猫や、子猫期に人の手に慣れる機会が少なかった猫では、生涯抱っこが苦手なままのこともあります。
その場合でも、実務上必要なのは「抱っこ」ではなく「安全に移動させられること」です。代替手段はあります。
抱っこができないこと自体は、猫との関係の良し悪しを示すものではありません。膝に乗る、同じ部屋にいる、名前を呼ぶと来る——猫が信頼を表す形は他にいくらでもあります。
子猫期より時間はかかりますが、成猫でも変化する猫は多くいます。目安として、子猫なら1〜2週間、成猫なら1〜2か月を見ておくと気持ちが楽です。ポイントは同じで、短時間・高頻度・こちらから終わらせる、の3点です。ただし個体差が大きく、生涯苦手なままの猫もいます。
噛む直前には必ず前兆があります。しっぽの動き、耳の向き、体の硬直のいずれかです。噛まれているということは、そのサインが出た後も抱き続けている可能性が高いので、まずは「3秒で下ろす」に戻してください。噛まれてから下ろすと、噛めば解放されると学習してしまいます。
持ち上げ方の違い(お尻を支えているか)、動作の速さ、声の高さ、普段の関わり方などが影響します。抱っこできる人のやり方を横から観察して、持ち方と所要時間を真似るのが近道です。とくに「何秒で下ろしているか」を数えてみると、差がはっきり分かることがあります。
抱っこの練習で延ばすべきは時間ではなく、成功して終わった回数です。3秒で下ろす、お尻を支える、猫が降りたがる前にこちらから終わらせる。この3つを1週間続けるだけで、多くの猫の反応は変わります。
うまくいかない日は前の段階に戻る。それが遠回りに見えて、いちばん早い道です。