ごはんを食べ終わった猫が、器の周りの床を前足でカリカリとかく。何もない床をかき寄せるように動かして、満足したように去っていく。初めて見ると「気に入らなかったのかな」と不安になりますが、この行動には猫なりの筋が通っています。
猫が食器の周りをかく動きは、トイレで排泄物に砂をかける動作とよく似ています。実際、動作としてはほぼ同じものです。
野生下の猫科動物には、獲物を一度に食べきれないとき、土や落ち葉をかけて隠しておく行動があります。匂いを消して他の動物に見つからないようにし、後で戻って食べるためです。飼い猫の食器の周りには土も落ち葉もありませんが、行動のプログラムだけが残っているため、何もない床をかき寄せる動作になります。
つまりこれは、「まずい」の意思表示ではなく「これは取っておく」の意思表示に近いものです。食べ終わった後だけでなく、食べる前や食事の途中でやる猫もいます。
似た文脈で理解できる行動として、物を前足で落とす仕草があります。こちらも野生時代の動きの名残とされ、意味づけの仕方が共通しています。猫が物を落とす理由と、やめさせる方法 も併せてどうぞ。
もともとやっていた猫が続けているぶんには、気にする必要はありません。見直す価値があるのは 「最近急に増えた」 ケースです。
最も多い背景です。猫は本来1日に十数回の少量摂取をする動物で、1回に出された量が多いと「食べきれない=取っておく」という判断になります。
確認方法は単純で、いつもの半分の量を出してみることです。それで完食し、床をかかなくなるなら量の問題です。1日の総量は変えず、回数を3〜4回に分けてください。自動給餌器を使えば留守番中でも分けられます。
フードを変えた直後、あるいは同じフードでも開封から時間が経って風味が落ちたときに増えることがあります。猫は嗅覚で食べ物を判断する割合が高く、酸化した油の匂いに敏感です。
フードを切り替える場合は、急に変えると食べなくなることがあります。猫のフードの切り替え方|7日間の手順 の手順で進めてください。
猫にとって食事は無防備な時間です。次のような環境では「早く切り上げて隠したい」という判断になりやすくなります。
多頭飼いの場合、器を離す(できれば別の部屋に置く)だけで解消することがあります。
結論としては やめさせる必要はありません。健康上の問題はなく、猫にとっては自然な行動です。
ただし、次のような実害がある場合は対処します。
| 困りごと | 対処 |
|---|---|
| 床や壁紙が傷む | 器の下に大きめのランチョンマットやトレーを敷く |
| マットをかき寄せて器がひっくり返る | 重さのある器、または滑り止め付きのトレーに変える |
| 周りの物(新聞紙・タオル)をかけてしまう | 器の周囲50cm に物を置かない |
| 残ったフードが放置される | 食べ終わって15〜20分たったら器を下げる |
叱る・音で驚かせるといった対処は逆効果です。猫にとっては理由のある行動なので、止まらないまま食事そのものへの不安だけが増え、食べる場所を変えたり食事量が落ちたりします。
行動そのものは正常ですが、次のような変化が重なる場合は別の問題を疑います。
食欲が落ちている状態が3日以上続く場合は、猫では肝臓への負担が問題になるため、様子見を続けないでください。
直接「まずい」を意味する行動ではありません。もともとは食べ残しを隠して後で食べるための動作で、獲物を土や落ち葉で覆う行動が飼育環境で形を変えたものです。ですから、よく食べる猫でも、大好きなフードのときでもやります。ただし結果として「今は食べきらない」という判断とセットになっているため、量が多すぎるサインとしては読めます。見分け方は簡単で、量を半分にして出してみてください。完食して床をかかなくなるなら量の問題、量を減らしても同じようにかくなら、その猫の習慣だと考えて差し支えありません。なお、フードを変えた直後だけ急に増えた場合は、風味が合っていない可能性があるので、以前のフードに少し戻して反応を比べてみてください。
動作としてはほぼ同じもので、どちらも「対象を覆って隠す」という同じ行動プログラムから来ています。トイレでは排泄物の匂いを消すため、食器の前では食べ残しの匂いを消すため——目的が違うだけで、体の動かし方は共通です。そのため、片方をよくやる猫はもう片方もよくやる傾向があります。逆に、これまで両方していた猫が急にどちらもしなくなった場合は、前足や肩に痛みがある可能性を考えます。関節に不調があると、体重を片側にかける動作を避けるようになるためです。とくにシニア猫で砂かきが減った、トイレの外に排泄物が出るようになった、といった変化があるときは、行動の変化ではなく体の問題として見てください。
器の周囲50cm 以内に、猫がくわえたりかき寄せたりできる軽い物を置かないのが基本です。新聞紙、ペーパータオル、薄いマット、タオルなどはかけられる対象になります。そのうえで、床の傷や汚れを防ぎたい場合は、猫の力では動かせない重さと大きさのトレーを使ってください。シリコン製で縁が立ち上がったタイプは、こぼれた水やフードも受けられて実用的です。もうひとつ有効なのが、食べ終わりのタイミングで器を下げてしまうことです。「隠す対象」がなくなれば行動自体が起きません。食事を置きっぱなしにする自由給餌をしている場合は、この機会に1日3〜4回の分割給餌に切り替えると、量の管理もしやすくなります。
食器の前で床をかくのは、食べ残しを隠しておくという野生時代の行動の名残です。異常ではないので、やめさせる必要はありません。
急に増えたときだけ、1回量・フードの鮮度・器の場所の3つを確認してください。多くは「1回の量を減らして回数を分ける」で収まります。床の傷が気になるなら、重さのあるトレーを敷き、食べ終わったら器を下げる。叱るより、環境を変えるほうがずっと早く解決します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、獣医学的な診断・治療を保証するものではありません。愛猫の状態が気になる場合は、必ずかかりつけの動物病院にご相談ください。